自分は特別ではないということを受け容れる半田高校生のはなし
中学校時代にトップレベルだった生徒がトップレベルの高校に入るとどういう心理状態になるのか。「子どもには半田高校に入学して欲しい」と思われている保護者の方に、一体子供の心にどんなことが起こるのかを予め知っておいていただければと思い、ブログを書きました。また、お子さん自身もどう向き合えばよいのかを私なりにまとめてみました。半田高校出身の保護者の方には当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、半田高校への進学を考えられている保護者の方はご一読ください。
サテライトの塾生の子達、とくに半田高校の子達と話していると、とても気持ちが楽である。(半田高校というのは知多半島で一番の進学校である。)というか「大人」なのだ。さてそれはなぜだろうか、と先日ご飯を食べながら生徒と話した。
「半田高校に入るということは、多くの人にとって、自分は特別な人間ではなかったということを突きつけられるということなんですよ。」とある子が切りだした。「それをどこで受け容れられるか、というのはみんなが感じているんです。早く受け容れた方が傷は浅い。そして、その上でやることをやるんですよね。それでもやらなきゃならないんですよ、自分は実は普通よりちょっと上に過ぎないと知ってしまっても。」と違う子が応じる。二人から卑屈な感情は感じない。爽やかに言い放つのだ。
自分は特別な人間ではない、という言葉は彼らにとって最初は受け容れ難いものだっただろう。ずっと中学ではトップレベルだったのだから。でも、彼らは強い。落胆して終わりではなく、だからこそ努力をしなければならない、と自分を奮い立たせる理由に変えていたのだ。翼を折られても、走ることでゴールを目指すと決めている。
半田高校のトップの10人は違う人間だ、神から与えられた人たちだ、と彼ら、彼女たちはいう。「進学実績を作ってくれる人たち」と彼ら、彼女らは表現していた。だから、どれだけ学校が煽っても、私たちは東大も京大も行くつもりはないと言っていた。予備校の輝かしい合格実績や体験談も、「彼は彼、私は私」とかなり冷静に見ている。「あの人は学年トップ。だから、自分がそうなれるとは思わない。私には私の戦い方がある。」というわけだ。輝かしい合格体験記はリテラシーが高い彼ら、彼女には、あまり効果がないようだ。小さな物語の時代なのだ。
「多分僕らは自分は特別でないということをすでに受け容れていて、でも、それでもやらなくてはいけないと思っていて自分の戦い方を探しているんです。だから、先生の考えに共感する生徒が集まってるんだと思うんですよ。」泣けることを言ってくれる。「でも、自分が負けることで優しくなれた気がするんです。中学のときと比べてなんですけど。それが成長かなって思います。」そんなふうに言えてしまう高校生が日本に何人いるのだろうか。
半田高校に入りたければ、別に中学の時の順位にこだわらなくてもよい。内申をしっかり稼いでいればよいのだ。公立入試は云っても、公立入試に過ぎない。東海、滝といった難関私立のレベルではない。みんなが受けるからどうしても上限があるし、前提となる内申点がある。半田高校に入るという目標ひとつにしても、その子にはその子たちの戦い方があり、それはひとりひとり違う。学力がなくても成績が良ければ入ることもできる。というように、そのようにその目的達成だけを考えていけば、「本当にその子にあった戦い方」というのが、多くの場合存在する。(頭がいい、と学校の成績はイコールではない。成績だけではいると、入った後大変なのだが…)
しかし私がみんなに伝えたいことはそれでもみんなは特別な存在なのだということだ。学力なんて、その人の一面でしかない。人間長所半分、短所半分である。ならせばみんな偏差値50なのだと私は信じている。英語、数学に加えて、「優しさ」なんて項目があったらどうだろうか。そんなような勉強以外の項目をどんどん増やしていったらどうだろうか。きっとならせば偏差値50になると思うのだ。
でも、ならすことにあまり意味はない。そうではなく、ならす前を見てほしい。すべての項目で一番を取ることはできない。例をあげると、身長と体重でもう、一番を落とすと思うのだ。あなたはおそらく、ギネスには載れない。一番は世界に一人しかいないのだ。全部一番をとるとそれは全知全能ということになる。つまりぼくらはどこまでいっても中途半端な才能の集まりなのだ、一人一人が。中途半端の総体としての自分を受け容れることで、新たに、自分の活かし方、戦い方が見えてくる。
例えば、英語は偏差値60、数学は50。スキーは地区大会まで、ギターはFであきらめた。こういう人がいるとして、その、中途半端さのバランスは他の誰にもマネができないあなただけのユニークなバランスになるだろう。他の誰も君と同じバランス、組み合わせの人はいない。皮肉にもあなたが周りに誇りたい長所ではなく、あなたが短所と思っているものも含めたその中途半端さがあなたをあなたたらしめているのだ。
だからこそ君たちは特別なんだ。すこし自分が思っていた特別感と形は違うかもしれないけれど、あなたが特別なことには変わりない。だから胸をはって自分の中途半端さを受け容れて、明日を生きるしかない。明日も東から日が昇る。あなたが中途半端であろうと、たとえそうでなかろうと。
みんな、「その上で」勝負している。